紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  「害虫防除の常識」    (目次へ)

    2.有害生物(害虫)管理にあたって守るべき事柄

     6) 農業と鳥獣の保護及び狩猟の適正化法とのかかわり

 近年の鳥獣被害の増加

 近年、中山間地域では、鳥獣による農作物の被害が増加している。最近の被害の状況は表10に示した通りであるが、特に、獣害ではイノシシ、シカ、サルの被害額が多く、鳥害ではカラス、ヒヨドリ、スズメ、ムクドリ、ハトの被害が大きい。この他、人への危害を含めると、クマによる被害がマスコミでよく報道されている。

 近年の獣害の増加は、高齢化などによる狩猟人口の減少や、農山村の過疎化、高齢化などによって獣類が人里に進出しやすくなってきたこと、温暖化が影響して冬季の積雪や寒さによる死亡率が低下し個体数が増加したこと、森林の人工林化やミズナラ・コナラ類がカシノナガキクイムシなどにより大量に枯死し、森林地帯で餌が不足していることなどが原因とされている。

 鳥獣害による農作物の被害を防止するために、防鳥ネットを張る、イノシシ、シカなどの侵入を防ぐ電気柵を設ける、犬に威嚇させるなどの圃場への侵入防止対策が実施されているが、それだけでは限界がある。そこで、鳥獣を狩猟によって駆除し、被害を減らすことがこれまでも行われてきた。その際には、様々な規制が「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」によって定められているので、この法律を守って実施する必要がある。

 「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」とは

 野生鳥獣の保護や狩猟に関係する「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」が戦前に定められた。その後、鳥獣を巡る状況や時代の変化に対応してたびたび改正が行われ、2002年には「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」と名称と内容が改正された。

 まず、この法律の目的は、1)鳥獣の保護、2)鳥獣による生活環境、農林水産業および生態系の被害の防止、3)猟具を使用する際の危険防止を図ることとされ、このことによって、生物の多様性の確保、生活環境の保全および農林水産業の健全な発展に寄与し、自然環境の恩恵を享受できる国民生活の確保、地域社会の健全な発展に資するとされている。

 この法律は、鳥獣の保護を基本として、鳥獣保護区や休猟区、狩猟期間の設定、保護を必要とする鳥獣の捕獲等の禁止、狩猟方法の制限など様々な規制を設けている。しかし、従来の制度では、特定の鳥獣の増加によって農林業被害が深刻化する一方で、地域によっては特定の鳥獣について個体群の絶滅が懸念されるようになった。このため、1999年に法律改正され、「
特定鳥獣保護管理計画」制度が新たに設けられた。この制度では、、野生鳥獣との共存を図るために、特定鳥獣については保護管理計画を策定して個体数管理を科学的・計画的に行うこととし、休猟区や狩猟期間等の変更を行うことができ、被害の多い鳥獣については適正なレベルまで個体数を減らす一方、数の少ない鳥獣についてはその保全を図るような管理を行うようになった。

 なお、この法律でいう
特定鳥獣とは、都道府県の区域内で個体数が著しく増加し、又は、減少している鳥獣で、それらの生息状況などから、長期的な観点から保護管理を要するものを指す。具体的には、「特定鳥獣保護管理計画」の中で定めるとされている。紀伊半島では、三重県と奈良県でニホンジカについて「特定鳥獣保護管理計画」が策定されており、和歌山県ではかつてニホンザルで策定されたが計画期間が終了した(現在でも同様の観点から管理が行われている)。

 農業生産者が農地を荒らす鳥獣を駆除したい場合に、どうしたらよいのだろうか

 この法律では、鳥獣を捕獲又は殺傷することに対して様々な規制を設けられており、畑や裏山に行って、かってに「わな」を仕掛けて有害動物をとらえることはできない。所定の申請をして許可を受け、規則にしたがって狩猟を行わないと、鳥獣の適正な保護管理ができないばかりか、当事者に罰則がかかるので十分にきまりを学び、許可を得てから実施する必要がある。農作物を加害する鳥獣を捕獲する場合に必要な許可などを下記に挙げてみる。

1.
狩猟免許を都道府県知事から受ける必要がある。狩猟免許の種類は、網猟、わな猟、装薬銃を使用する猟法、空気銃を使用する猟法の4つに分けられている。免許を得るには、管轄の都道府県知事に申請書を出して、狩猟免許試験を受ける必要がある。なお、銃器を使用して捕獲等をしようとする場合には、銃砲刀剣類所持等取締法に基づく許可も必要である。

2. 狩猟をしようとする者は、狩猟を行う区域を都道府県知事に申請して登録を受ける必要がある(
狩猟者登録)。
 
3.都道府県知事が定める「鳥獣保護事業計画」の内容をよく熟知して、それを守る。「鳥獣保護事業計画」では、鳥獣保護区、特別保護地区、休猟区以外の狩猟可能区域内で、狩猟期間に、定められた捕獲数以内で狩猟鳥獣の捕獲等を行うことができるとされている。
狩猟鳥獣とは、農林水産業や生態系等に被害を及ぼす鳥獣であって、その捕獲等によって生息状況に著しい影響が生じるおそれがないもので、環境省令(別表第一)によって定められている。また、危険防止と静穏の確保のために、特定猟具の使用を禁止したり制限する区域が設けられている。

4.対象鳥獣以外の鳥獣を無差別に捕獲し、あるいは捕獲した鳥獣を無闇に苦しめたり、必要に応じて無傷で放すことができないために鳥獣保護に支障の生じる猟具で、環境省令に定められた
使用禁止猟具(例えば、イノシシやニホンジカに対する、とらばさみ、くくりわな(締め付け防止装置が装着されていないものなど)は、狩猟目的で所持してはならないことになっている。

5.「特定鳥獣保護管理計画」の策定に際して、利害関係者として都道府県に意見を反映させる。

6.その他、詳細な規定があるので、狩猟免許試験を受けるに際して、法規等について十分に勉強して欲しい。


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